富山というと、立山連峰の壮大な景観や新鮮な海の幸、そして北陸新幹線の開通以来ぐっと身近になった観光地、というイメージが強い。しかし、その静かな地方都市の内側に、全国的には知られていないもうひとつの顔がある。LGBTQコミュニティの一部が利用する「ハッテン場」と呼ばれる出会いのスポット群だ。
「ハッテン場」とは何か - 言葉の意味と文化的背景
「ハッテン場」とは、主に男性同士の出会いの場として自然発生的に使われる公共空間や施設を指す俗称だ。この文化は、長年のLGBTQコミュニティにおける「居場所のなさ」や「出会いの機会の限界」から派生したものであり、全国各地でその存在が確認されている。
もとは「発展する」という言葉が転じたものとされ、ゲイ・バイセクシャル男性、女装者、ニューハーフなど、性的マイノリティを自認する人々が匿名で集う非公式の場を指す。専用の施設というわけではなく、公園・サウナ・道の駅・パーキングエリアといった、誰でも出入りできる公共の場が自然にそういった場所として機能していくケースが多い。
地方都市においてこの傾向は顕著だ。LGBTに対する理解が浅く活動が積極的でない地方の都市では、セクシャルマイノリティの人々が集える公式の施設やスペースが極めて少ない。富山もその例外ではない。
富山のLGBTQを取り巻く現状
北陸3県の中でも、富山はLGBTQ支援という面では後発と言える。ゲイバーやプライドイベントが充実している大都市圏と比べると、コミュニティ活動の発信力はまだ限られている。
それでも変化の兆しはある。富山大学では、人文学部の林夏生准教授が中心となり、多様性について学び考える場所づくりを進めており、LGBT当事者だけでなく教育現場や行政職員へ向けた講演会も積極的に行われている。また、「レインボーハート富山」という市民団体が、割り当てられた性と自身が感じる性別に違和感を持つ人々も含めて、みんなが楽しく暮らせる社会を目指した活動を続けている。
一方で、林准教授はセクシュアリティを理由に家族や友人から拒否され、「自分らしく生きたい」と故郷の富山を離れる当事者の姿を何名も見てきたという。「生まれ故郷の富山が大好きなのに、家族や親戚、知り合いから早く結婚して子育てをと言われるのが辛く、自分を責め悩んでいる人が多い」と話している。この言葉が、地方における性的マイノリティのリアルをよく表している。
富山の主なハッテン場スポットの実態
オンライン掲示板やSNSでは、富山県内の複数スポットが「ハッテン場」として名前が挙がっている。ここでは、ネット上で情報が多く確認されている場所を、あくまで実態記録として紹介する。利用や行為を助長する意図は一切ない。
常願寺川公園(中新川郡立山町)
富山駅から東へ車で約20分の場所にある常願寺川公園は、常願寺川の河川敷に南北に広がる敷地にサッカー場などのスポーツ施設と複数の駐車場・トイレを備えている。芝生や木々が多い環境で、ゲイの野外ハッテン場として盛んに利用されているという報告があり、多目的トイレ併設の北の駐車場に人が集まりやすいとされる。
富山県総合運動公園(富山市)
富山市南部に位置する富山県最大級の運動公園で、普段はスポーツ大会や家族向けのレクリエーション施設として利用されている。一方で、広い駐車場や多目的スペースの一部が、人の少ない時間帯に集合場所として活用されているという書き込みが複数報告されており、特に夜間から深夜帯の活動に関する投稿が多い。
稲荷公園(富山市稲荷園町)
稲荷公園は富山市の中心部にある自然豊かな公園で、昼間は家族連れで賑わう。夜になるとゲイが訪れるハッテン場に変わるとされ、20代や30代のいわゆるリーマン系ゲイに出会いやすいとの口コミがある。主なハッテンポイントは展望台と一体になった公衆トイレとされる。ただし、公園はとても広く監視カメラがあるという口コミもあるため、野外でのハッテンには注意が必要だとされる。
新港の森公園(射水市)
射水市のハッテン場として知られる新港の森公園は、住所が射水市作道689番地にあり、24時間利用可能な公園だ。ゲイだけでなく、女装者や多様なジェンダーを持つ人々が訪れるという情報がネット上に多数書き込まれている場所でもある。
スパ・アルプス(富山市)
スパ・アルプスは富山県富山市にある24時間営業のサウナ施設で、無料の大型駐車場を完備し宿泊も可能なため、富山県内外からゲイが集まるハッテン場として知られている。様々なジャンルのゲイが利用しており、特に20代から40代の割合が多い。ただし、見回りや監視カメラがあるため、ルールとマナーを守った行動が前提となる。
高岡エリアのハッテン場情報
富山市から少し離れた高岡市周辺にも、ネット上でハッテン場として名前が挙がるスポットがある。高岡でハッテン場として、または待ち合わせに使われている場所として、古城公園・高岡おとぎの森公園・前田公園・高岡駅南側エリアなどが掲示板上で言及されている。ただし、実際に訪問した人の中からは「それらしい人には会えなかった」という書き込みも多い。掲示板情報の信頼性は決して高くなく、ガセや釣りと思われる書き込みも混在している点は強調しておきたい。
LGBTQが集えるバーやコミュニティスペース
野外や施設でのハッテン場と並行して、富山にはLGBTQフレンドリーな店舗も存在する。その代表格が、ドラァグクイーンのママを筆頭に、レズビアン・ゲイ・ノンケが在籍するなんでもありのMix Bar Gだ。富山県でLGBTの人たちが生きやすい世の中にしたくてオープンしたという、その姿勢が地域のコミュニティから支持されている。
Mix Bar Gは富山城址公園東側の歓楽街・桜木町にあり、LGBTフレンドリーなミックスバーとして知られる。同じ桜木町には系列店のミックスバーも存在し、富山市内でも数少ないLGBTQ当事者が気軽に立ち寄れる場所となっている。
また、「レインボーハート富山」は富山のセクシャルマイノリティの支援団体として活動しており、LGBTを取り巻く環境改善に向けた啓発活動を続けている。こうした団体の存在は、コミュニティの可視化という意味でも大きな意味を持つ。
ハッテン場利用に伴う法的リスクと社会的課題
ハッテン場の存在を単に「情報として列挙する」だけで終わるのは、ジャーナリズムとしても不誠実だ。利用者が知っておくべきリスクについて、率直に触れておく必要がある。
公共の場を出会い目的に使用することは、周囲の人に不安や迷惑をかけるばかりか、地域社会との信頼関係を損なう危険性がある。性的な接触がある場合、条例違反(公然わいせつ・迷惑防止条例)や治安・防犯上のリスクに発展する可能性もある。
見知らぬ人物と公共の場で接触するという行為には、性感染症のリスクも常につきまとう。また、無料の出会い系を利用した場合、相手から「ゲイだとバラすぞ」といった脅迫・恐喝・詐欺などを受けたというニュースも近年増えている。リスクは想像以上に多岐にわたる。
掲示板情報もまた、必ずしも信頼できるものではない。釣りやガセといったいたずら目的の書き込みも多く、現地で騙される可能性が高いケースも報告されている。
より安全な出会い方 - オンラインとコミュニティ活用
ハッテン場に足を運ぶことに不安やリスクを感じるなら、オンラインでの出会いを選ぶ人が増えているのも現実だ。地方都市にはLGBTQ向けのバーやサークル、マッチングのための公共空間がほとんど存在しない。オープンに出会えない・語れない社会的な「見えない壁」が存在する。この壁を乗り越えるひとつの手段として、マッチングアプリやSNSを活用する流れは確実に広がっている。
Grindrをはじめとするゲイ向けマッチングアプリは、日本国内でも一定のユーザー数を持つ。身元の確認ができる環境でメッセージのやり取りができるため、突発的な公共の場でのリスクを下げる効果がある。もちろん、オンラインでもトラブルが皆無とは言えない。相手の情報を十分に確認し、初対面は人目のある安全な場所を選ぶといった基本的な注意は欠かせない。
コミュニティへの参加も、孤立感を解消するうえで有効だ。レインボーハート富山のような団体が主催するイベントや交流会に顔を出すことで、同じ悩みを持つ仲間と繋がれる機会が生まれる。ハッテン場という匿名の場での接触とは性質が根本的に異なる、人と人との継続的な関係が築けるかもしれない。
社会的視点から見たハッテン場の問題
ハッテン場の存在を「不道徳なもの」として一方的に排除しようとするアプローチには、根本的な限界がある。ハッテン場の存在を問題視するのは簡単だが、それを「排除すべきもの」として扱っている限り、根本的な解決は難しい。性的マイノリティが安心して集える場所が地域に存在しないから、公共の場がその代替として機能してしまう。問題の本質はそこにある。
行政や地域社会がLGBTQの存在を正面から受け止め、合法的で安全なコミュニティスペースを整備していくことが、長期的な解決への道だ。富山でも、Mix Bar Gやレインボーハート富山のような民間の取り組みがその先鞭をつけている。社会全体の意識が変わっていくには時間がかかるが、変化の種はすでに蒔かれている。
まとめ - 富山のハッテン場を知ること以上に大切なこと
富山のハッテン場というキーワードで検索する人の動機は様々だろう。純粋な好奇心の人もいれば、出会いを探している人、あるいは地域の実情を知りたいと考えるLGBT支援者もいるはずだ。本記事はそのすべての読者に向けて、スポット情報の羅列にとどまらず、法的リスク・社会的背景・より安全な選択肢という3つの視点を同時に提供することを意識した。
富山でゲイ・バイセクシャル・女装者として生きることは、まだ多くの困難を伴う。しかしその困難は、個人の問題ではなく地域社会全体で取り組むべき課題だ。ハッテン場という文化の背後にある孤独と渇望を理解することで、初めて建設的な議論が始まる。富山のLGBTQコミュニティが、野外の公園や暗いトイレではなく、堂々と笑えるオープンな場所で集える日が来ることを、切に願う。